カテゴリー

#11 シンセン・シティの歓喜(後編)

#11 シンセン・シティの歓喜(後編)

こんにちは!セルジオ筑後です。
前回のシンセン・シティの歓喜の続編です。
→前編はこちらです。

ショッピングモール内は吹き抜けになっていて、まるで巨大なイムズビルのようだ。

まだ出来たばかりとあってテナントは少ないが、ダイソンやアップルといった世界的なメーカーの姿が見える。

ここが最新鋭機器の見本市となるのも時間の問題だろう。

 とりあえず屋上を見ましょう、という友人の言葉に乗り、モールの屋上へと足を運ぶ。

ショッピングモールの屋上

 普通、ショッピングモールの屋上と言ったら、駐車場ですよね?

 しかしここは違います。

 なんだこの小洒落たビル群!?

ビルの屋上には有名店が

ビルの屋上にはブランドショップやカフェ、日本料理屋が軒を並べる。

モラージュ佐賀の屋上に鳥栖プレミアムアウトレットが出来た、と言えば、九州人にはわかりやすいだろう。

どの店も西洋モダンアートな建物で統一されている。

彼の言葉通り、スターバックスの横にはコワーキングスペースが設置されていた。

世界に誇る最新技術を生み出しているのはどんな人間なのか…とコワーキングスペース覗いてみたが、まだ開店前だった。

ここでPCのキーボードを叩き、タブレット端末をたぷたぷしつつ、スターバックスのドリップコーヒー(グランデ)で脳の疲れを癒す――。

イノベーションの創出には、リラックスした雰囲気で自由に仕事に没頭できる環境づくりが必要だ。こうして深センの街は、世界へイノベーションを発信し続けるのだろう。

 

 「はぇー、ビルの屋上にこんな施設が…これは仕事も捗るやろう」

 「それだけじゃないです。こっちに来てみてください」

 「ここは出来たばかりなんですが、お店だけじゃなくコワーキングスペースなんかも構えられるようになってるんですよ」

残念なことにまだ工事中でした

残念なことにまだ工事中のようで柵が立ててあったが、ビルの向こう側に通路が続いている。

 「このモールは小高い丘の谷間にあるんです。

この通路から、両方の丘の上にある公園へそのまま歩いて行けるようになるんですよ」

 屋上が公園に直結したショッピングモール!

屋上に公園があるビルは数あれど、屋上から公園へ直行できるビルはあまり聞いたことが無い。

春の昼下がりにはサブウェイでサンドイッチを買い、自然豊かな公園で小鳥のせせらぎを聞いた後、リフレッシュして仕事に戻れるという訳だ。今日は休日のためか、子供たちの姿もちらほら見える。

バブル時代の日本で、ビル会社の企画担当が書いたイメージ図そのままの未来が、ここにはあるのだ。

 

ちょっとした空中庭園を堪能した後、俺たちは火鍋を食べに向かった。待つこと30分、ようやく店に入った我々は、さっそく南国火鍋セットを注文し席に着いた。

深センでココナツミルク

 見てくれ、この白い輝きを!

 この円筒の頭をそぎ落とし、ストローを刺して中にたまっているココナッツ液を飲む。南国フルーツにありがちなバニラテイスト、しかしうまい!そして中には、いかにもうまそうな白いココナッツオイルの塊が…。

「この、白いコリコリした部分をスプーンでこそぎ落として食うとですね!」

「いや止めといた方がいいですよ、それ油ですからおなか壊しますよ」

 友人に止められたが、スプーンがついているということは、この杏仁豆腐的な白い塊を食えという神の啓示に違いない。友人の制止を振り切ってスプーンでそぎ落として口に運ぶ。うまい!確かにただの植物油の塊だが、プルプルした歯ごたえと油でくっついたココナッツ液の甘みが絶妙だ。日本で食べれば1,000円は軽く取られるだろう。

 

 ココナッツを心行くまで堪能していると、火鍋が運ばれてきた。一般的に見る中華火鍋とは全く異なる。全然辛くなさそうだし、そもそも具が鶏肉と玉ねぎのような謎の物体だけだ。この具を煮て、ポン酢につけて食べるらしい。早速煮上がった鶏肉を口に運ぶ…。

 「うわ、なんだこれ、甘い!こんなの初めて食べた、これどんな味付けされてるんだ?」

 「そうでしょうそうでしょう、これ実は、ヤシの実で出汁を取ってるんですよ」

甘い鶏肉には面食らったが、ポン酢の塩辛さと鶏肉の甘さが絶妙に調和した一品だ。玉ねぎ的な物体も実はココナッツの筋だということが判明した。これはココナッツやみつきになりますわ。北方の新鮮な羊肉も捨てがたいが、こんなものを毎日食えるなんて、南国って、いいよね!

深センで食べた火鍋

その後数回のトイレを挟んで、俺は友人に誘われるまま、深セン市内のとある広場へと向かった。

友人の忠告は本当だった。

なんぼうまいと言ってもつまるところヤシからナテラだ。

この油に打ち勝つ胃袋になるには、あと数ヶ月ここで暮らさなければならないだろう。

広場に続々と人が集まり始めた。警官隊が大勢の観客を誘導している。

「いったい何が始まるんです?」

「ちょっとしたスペクタクルですよ。まあ、見ててください」

右も左もぎゅう詰めになったその時、周りのビルの光が突然消えた。そして次の瞬間!

深センのビルのイルミネーション

 ビルから一斉に光が放たれ、赤、青、黄色と色とりどりに輝き始めた。

周りのビル群が一斉に光のイルミネーションを飾り、深センの夜空を照らす。

大勢の観客が歓声を上げている。年配の方の姿も多く見かける。

このおじいちゃんやおばあちゃんが子供の頃は、いや、彼らが自分の子供を育てていた頃は、このあたりには月明かりしか無かった。

香港100万ドルの夜景を見ながら月見をしていた彼らは、今やその夜景を手中に収めたのだ。

深センのビルのイルミネーション2

その日から2日間は、友人の家に泊まった。

2LDKのマンション27階で家賃は月3,000元(約6万円)、郊外とはいえ上海に比べるとかなり割安だ。

深センの街を堪能し、蚊帳のかかったベッドに横たわる。

同じ大都市でも、上海の雰囲気と全く違う。

上海は何でもありで泥臭く稼ぐイメージだが、深センは何と言うか、スマートだ。

精華大学や香港大学といった一流の大学を出た若い人材が、イノベーションを求めてこの南国へ集まってくる。

深センはとにかく若い人が多い。生真面目な雰囲気の北京や色々な意味で老獪な上海と比べて、自由な着想を得やすいのだと思う。

明日はもう日本へ帰る。

次にこの地を踏むのがいつかは分からないが、恐らくその時まで、この街はイノベーションを巻き起こし続けるだろう。

そうだ、今度来るときも、一泊だけなら香港へ行ってもいいかな。

ちゃんとした宿を取って飲茶を楽しんで、今度こそ香港の魅力を再発見するんだ。

夜の11時を過ぎた。

遠くにビル群がぼんやりと見える。

上海と同じく、この街も眠るという事を知らないらしい。

この街の暑さは、まるで天才たちの情熱が乗り移ったかのようだ。彼らは明日の世界を変えるべく、今日も試行錯誤を積み重ねているのである――。

END