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#10 シンセン・シティの歓喜(前編)

#10 シンセン・シティの歓喜(前編)

こんにちは、セルジオ筑後です。
深センに行ってきました。

 香港側の出国審査を受け、連絡通路を中国大陸側の入国ゲートへと向かう。

島国の人間からすると、国境(?)を徒歩で越えるというのはなかなか新鮮な体験だ。

幅50メートルに満たない小川超えれば、そこはもう別世界。

脱北者やメキシコの壁といったニュースを聞くと、国境破りと言うと大変なプロジェクトのように聞こえるが、それは日本が島国だからだ。

殆どの国では、物理的にはただ川を渡ったり境界線を徒歩で超えたりするだけで簡単に他国へ入国できる。国境超えは、日本人が考えるよりずっと敷居が低い。

そうでなければ、アメリカの大統領もわざわざ壁を作るなどと言い出さないだろう。

入国ゲートに直結している地下鉄に乗り換え、待ち合わせの駅まで向かう。

値段は4元、香港の鉄道とあまり変わらないが端数が無い分こちらの方が便利だ。

香港で鉄道に乗りまくると、特に使いどころのない50セント(7円)や20セント(3円)のコインが山ほどたまる。

形がユニークで子供向けのお土産には持ってこいだが、正直なところお賽銭くらいにしか使えない代物だ。

やたらと分厚くて重い5ドル(70円)硬貨といい、変な形をした2ドル(28円)硬貨といい、香港の硬貨は良く言えばオリジナリティに溢れている。

しかし使う側から言わせれば…いったい誰がこんなお金をデザインしたんだろうか。

オリジナリティに溢れる香港の通貨
オリジナリティに溢れる香港の通貨

地下鉄のドアには電気自動車メーカーBYDの広告が、そして左下には巨大蒸気船とともに沈んだはずのディカプリオが…。中国車の宣伝にディカプリオ。俺たちが生きているのは、そんな時代だ。

 この電気自動車、シリーズ名が全て中国の王朝名になっており、この車は「BYD-唐シリーズ」と言うらしい。他にもセダン型の秦シリーズやSUVの宋シリーズ等があるようだ。最高グレードの名前はたぶん「漢シリーズ」になるんだろうな…。

BYDの電気自動車

 自家用車で迎えに来てくれた友人と無事合流し、広東省オリジナル鍋なるものをご馳走になることになった。

彼との付き合いも5年近くになる。

彼が日本に留学していた頃にふとしたきっかけで知り合い、そのまま何だかんだで付き合いが続いている。当時は大学院生だった彼も、今ではIT企業に勤める立派なビジネスパーソンだ。

年季の入ったフォードの助手席に乗る。

あの頼りなさそうな学生が、今や立派に外車を乗り回している――。

「このアメ車、幾らで買ったん?」

「うーん、中古車だったから車だけなら13万元(210万円)で買えたんだけど、深セン市はナンバープレート代が高いから、2万元(33万円)余計にかかっちゃった」

 中古車の購入代金、占めて約240万円。アメ車とはいえ日本より高い。

 「それなら、ナンバープレートだけ湖南省にすれば安くならない?」

 「確かに湖南省ナンバーなら5000元(約8万円)で済むんだけど、そうすると市内で運転するのに支障が出るからね。この車は営業にも使ってるから、深セン市で車を登録しなきゃいけないんだ」

 広州市や深セン市には、市内ナンバーでない車に走行制限があり、例えば広州市では、他地域ナンバーの車は連続4日間以上市内の一部地域を走行できない「開四停四」という政策が取られている。

皆マイカーを持てるほど裕福になったので、こうしないと渋滞でろくに車が動かなくなるのだ。その結果、大都市のナンバープレートが高騰し、深セン市ではナンバーを登録するだけで日本円で約30万円が飛んでいく事態となった。

 深セン市のナンバープレートは、基本的に青果市場よろしくセリで手に入れる必要がある。発行されるナンバープレートの数が限られているので、より大金を出した人が勝ちというオークション方式での取引となっているのだ。8のゾロ目など縁起のいい数字がセリに出された日には、初マグロ並の激しい競り合いとなる。

こんな激しいバトルが、月イチで繰り広げられているのだ。

 もし車体の購入だけで資金が尽きてしまったら?その時は新規ナンバーの抽選に賭けるしか無い。もし当たれば、安価で車を手に入れることができる。1%未満の確率で…。

 

中国のシリコンバレーこと深センには、多くのハイテク会社が軒を並べている。

アジア有数の最高学府である香港大学を抱え、関税ほぼフリーで輸出入できる香港に近いというアドバンテージが、深センをのどかな田園から超近代都市へと変えた。佐賀平野がいきなりハイテク企業の集う巨大ビル群と化した、と言えば、九州人にはわかりやすいだろう。

 街のど真ん中を走るハイウェイを郊外方面に突っ切ると、近未来的なフォルムをしたショッピングモールが見えてきた。地下駐車場へ降り車を停めると、駐車スペースに奇妙な箱が。

電気自動車用の充電器

これはあれですね、路肩にある駐車スペースに車停めたとき料金を入れる黄色いあの

 「これは充電器ですよ。電気自動車用の」

電気自動車の充電器がズラリ

この、ずらりと並んだ黒いボックス。電気自動車時代を見越して、既に充電器を導入しているのだ。

こういう施設は、上海でもあまり見かけない。

まだガソリン車が主流だが、よく見ると何台か充電している。日本ではまだ、ショッピングモールやツタヤの駐車場に数台分の充電スペースがあるだけだ。近未来は香港ではなく、深センにあった。

 「こらすごか、こげなつ福岡では見たこっなかばい」

 思わず方言が出てしまった。

 「中国はまだまだガソリン車ばかりですけど、電気自動車のナンバープレートを取りやすくしたり優遇政策を取っているから、これから電気自動車が増えてくると思いますよ。それより…」

 「それより?」

 「駐車場が空いてませんね。警備員の人に聞いてみましょう」

 友人が制服を着た警備員に話しかけると、警備員は少し広めに空いた通路を指差した。

通路の壁沿いに縦列駐車で車が停まっており、一台分だけ綺麗にスペースが空いている。

ここに縦列駐車しろということらしい。

中国では、駐車スペース=空いたスペースの公式が成り立つ。車庫入れが出来ないドライバーは生きていけない修羅の街。そんな深センの最新ショッピングモールに、我々は潜入を開始した――。

 

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